熊本を代表する焼き物であり国指定の伝統的工芸品に選ばれた小代焼。野趣溢れる風合いは華美を削いだ茶の世界でも愛されてきました。18年という長い修業期間を経て、1985年に玉名郡長洲町で「一先窯」を開いた山口耕三さん。展示室には、うっすらと黄色がかったワラ灰釉の焼物たちが、行儀よく並んでいます。焼き物を始めたのは、志野焼を描いた随筆を読んで、作者の生き方に魅せられたから。「モノ作りはいいなと純粋に感動しました」。宮城県の生まれだが、全国の窯元を転々としながら修行を重ねました。姉夫婦が熊本へ移り住んだこともあり、親も安心するだろうと山口さんも熊本へと移住しました。「熊本にも焼物は色々ありますが、小代焼は素朴で力強い。稲ワラ、山の土、木の灰と、使う材料は身近なものばかりで、幼い頃から田んぼに囲まれて育った私としては、安らぎを感じたんですね」山へ出かけて土を掘り、粉砕や濾過、土練りなどを経て、粘土を作ります。小代焼の特徴でもあるワラ灰の釉薬は年に1回、田んぼ1反分を燃やして用意しています。「景気の良かったころだと3反分は燃やしていましたよ。」と、山口さんは誇らしげに当時を語ってくれます。窯の内部を酸素不足にする還元焼成によって、ワラ灰釉が焼き色に変化をもたらしますが、同じ作り方をしていても粘土の質や釉薬を作る年で出来映えは違ってくるといいます。「陶器は磁器と違い厚みがあって割れやすい。ですが土に空いた小さな空気穴で呼吸をしていますから、花瓶に生けた花は腐りにくく、温かい飲み物には保温性を発揮する。そこが魅力でしょうね」独立以来、作陶を手伝ってくれた妻・美子さんに加えて現在は息子夫婦の友一さん・博子さんといっしょに家族で作陶に励んでいます。親子そろって口を揃えること、それは「基本に忠実に」。奇をてらわず、使えばホッとする器。それこそ「一先窯」の個性でしょう。