ふもと窯の窯元・井上泰秋さん。“加藤清正の御用窯の発祥の窯”といわれる古畑窯跡地のすぐそばに窯を移して50年以上経ちました。現在も、息子・尚之さんと弟子と共に現役で創作活動に取り組んでいます。幼い頃から工作が得意で、才能を見抜いた学校の先生からの強い後押しで熊本県工業試験場窯業課程に進みました。昔ながらの登り窯を使い、昔ながらの作業を今日までかたくなに守り続けています。小代焼の代表的な技法は柄杓に取った釉薬を器の表面に勢いよく振りかけ、その流れや滴りで文様を表現する“打ちかけ流し”ですが、井上さんは新たに“蒔釉がけ”という独自の技法を編み出しました。液状のワラ白釉薬を乾燥させ、目の細かな網でふるいにかけていくと、ポツポツと点描されたような絵柄がおぼろげに浮かび上がって見えます。「売れるか否かは別にして、技術が鈍らないよう大皿などは作り続けていきたいですね。大作が作られれば、小さい作品にもチカラがこもって見える。プロが見れば、その違いは一目瞭然です。」現在は、ふもと窯の作品の7割近くを尚之さんが手がけています。中世イギリスの陶器・スリップウェアを日本スタイルにアレンジした食器が全国的に評判を呼び、ファンも多くいます。生乾きの鉢や皿の全面に地色となるスリップ(泥漿状の化粧土)をかけ、さらに上からスポイトで白いスリップを細く垂らして筆を入れたり櫛状の道具で引っかいたりしていくと、地色とのコントラストが美しい模様が浮かび上がります。“新しいモノは一切作らない”という尚之さん。これは古代人が貝殻や草木をデザインのモデルとしたように、小代焼の原点である古小代を指標として、自分の作品にしていくことなのだと思います。