挽物師として活躍する義父・古川昭二さんの仕事をサラリーマン時代から手伝い、34歳で本格的に挽物師の道を歩み始めた林田正晴さん。現在は人吉クラフトパーク石野公園内の木工館に工房を構え、制作のかたわら実演や子供向けの箸作り教室なども行っています。人吉球磨地方は木材資源に恵まれ、県内外の銘木が集まる集積地でしたが、林業の衰退とともにその規模も縮小しつつあります。林田さんも少なからず影響を受けているといいますが、注文が入れば盆や夫婦椀などを依頼に応じて作っています。使う材料はケヤキが中心。最初の木材選びが挽く技術以上に難しいようで、良い木だと思い手に入れてみても、挽いてみると思ったように木目が出ない…ということも。ちなみにお盆のように丸いものだと木を輪切りにして使うものかと思いがちですが、実は縦切りにして使うのだそう。なぜなら輪切りだと年輪に沿って割れてしまうからです。切り出した皮付きの木材は反りやヒビ割れを防ぐため、数年寝かせた後に荒削りして、さらに数年乾燥させます。「最低でも木材を5年以上乾燥させてから使うため在庫の管理はもちろん、どの程度寝かせるかのタイミングを見極めるのも重要です。いざ木を挽いてみると乾燥が足りなかった…なんてことになれば、目も当てられませんから」ようやく使える状態になった木は、ろくろに取り付けて仕上げ。馬と呼ばれる木の台で削り道具と腕を固定させ、ガラガラと大きな音を立てながら回転する木に丸ガンナやキサゲといった手製の削り道具をあてて挽いていくと、木片が滑らかな曲線へと変化していきます。一見簡単そうにも見えますが、材料が材料だけに削り損ないは許されません。林田さんも、この仕事を始めた頃は何度も失敗を重ねながら、体で手の感覚を覚えていったといいます。成型後は、拭き漆で仕上げて光沢を出す。漆を塗ってはすぐに拭き上げ、乾燥させた次の日にまた漆を塗る。この作業を5回以上繰り返すと、素朴な木質の表面がしっとりと艶を帯び、気品が増して見えます。「作った品物を手に取って喜んで下さるお客様に巡り会えたときは、本当に嬉しいですね」と語る林田さん。手仕事だからこそ出せる、持ちやすさや使いやすさをぜひ手に取って感じてください。