ひとよし
大富家具店

おお
とみ
あつ

 

人吉市

1949年
福岡大学を卒業後、久留米井筒屋で外商を担当。
父の誘いで帰郷後、木工技術を学ぶ。
1980年
家業を継ぐ。
1981年
ケヤキ材の火鉢が県伝統工芸展のグランプリを受賞。
昔ながらの工法による注文家具を手がける。

 

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大富章良 氏インタビュー記事(2010年頃)


さほど広くない間口に少しばかりの和ダンスや収納棚が並ぶ店先。木を叩く音に誘われるまま中へ入っていくと、町家造りの奥にある工房へと行き着いた。「ちょっと待っててね」と声をかけてくれた人こそ、2代目の大富章良さんだ。
人吉市二日町の通りに面した「大富家具店」。鹿児島出身の父・大富敦美さんが人吉の親戚が営む家具製作所で修行した後、1938年に独立開業した。
福岡の大学を卒業した章良さんは、そのまま家業を継いで…とはいかず、最初は久留米市内の百貨店に就職。大牟田店で外商の仕事をしていたが、父親から家業の手伝いを頼まれ、28歳の頃に帰郷した。原木から材料を切り出す木取りやペーパー掛けなど、少しずつ技術を習得。その後、長年勤めていた職人や父が次々と他界し、店を継ぐことを決意。
父の代と変わらぬ注文家具づくりを主とする仕事は、タンスの仕切りなどの見えない部分に、人吉家具の伝統工法である「けんどめこうほう」を用いている。剣先と呼ばれる尖った角を板の隅に作り、もう一方の木材に直角やT字のほぞという溝を作って接合。大富さんが作る家具は、鉄の釘を1本も使わない。「木釘は打ちますが…」とすまなそうに語るのも、それさえ邪道と捉える職人気質ゆえだろう。
材料には、南九州に自生し育つケヤキ、水目桜、モミ、桐など樹齢数を重ねた銘木を主材料とし、数年の乾燥を経た良質の無垢材を使う。これらの木目を生かした家具は、材料の選び方一つで印象が大きく変わる。塗装は下塗り、中塗り、上塗りと3回行い、塗料を塗るたびに布で丁寧に拭き取るとくっきりとした木目が浮び上がる。一つとして同じ模様のない、個性ある家具が生まれる。
食器棚もクローゼットも作り付けが基本という最近の住宅事情のあおりを受け、大富さんのところも「以前は見積もりも断るほど忙しい毎日でしたが、仕事の数もずいぶん減りました。」と言う。代わりに最近依頼が多いのは、材家具の“再生”だ。長い年月で生じた歪みを調整し、傷などを削り落として塗り直せば、新品と見紛うばかりの仕上がりに。ちょうど店先に並んでいた黒柿の和ダンスも、再生によって数十年前のものとは思えない姿へと変身を遂げていた。
価格だけを見れば高価な買い物かもしれないが、赤ちゃんだった我が子が成人する頃には、これを再生して嫁入り道具として持たせる…。そんなことが出来るのも、無垢材ならではのこと。「今どきの言い方をすれば、エコ家具ですよ。」100年前の家や家具を大切に次の世代へと受け継ぐ文化を、私たちも作り出したいものだ。