木工の指物をはじめ木彫、挽物、日本画などを総合的に組み合わせた作品を生み出してきた戸田東蔭さん。美術の先生に才能を見出され、彫刻を学び始めたのは小学生のときでした。その後、室内装飾や家具などのデザインの仕事を経験し、21歳で独立。現在は長男の純一さんが木工(指物・挽物・刳物)を、次男・友行さんが漆芸の道へと進んでいます。「木工は、木目の都合にあわせて作ることが大切。思い描いたカタチを彫り進めるうちに違った木目の動きが見えてきたとき、どう生かしていくかが腕の見せどころです。」作品と同様、趣味も多彩です。書画や茶道、蓄音機による音楽鑑賞、うどん作りなど。工房のある広い敷地には古民家を改装した趣のある建物が点在しますが、内装は自ら手作りしたそうです。囲炉裏部屋やステンドグラスをはめ込んだモダンな洋間、障子や襖に墨絵を描いた茶室…。セピア色の時代にタイムスリップしたような世界が広がります。「何かを創作する人間は、いろんな世界を知っておくことが必要です。感覚を鍛えることで美術的センスが養われ、新しい作品づくりへと役立つ。生活そのものが工芸とつながっていますね。」【東蔭さんが今後取り組んでみたいのは】「江戸小物といって、タンスなどの小さな指物に精神を打ち込んでみたいですね。大きな作品に負けないだけの気持ちを打ち込む、そこには経験や技術が生かされて来るから。昔は大作も作ってきたので、若い人にはそうした作品にも取り組んでほしいですね。」と、自分の背中を追う息子たちへの期待がうかがえます。