端正な編み目に美しいうねりを加えた花カゴや、着物の帯をモチーフにしたタペストリータイプの花入れなど、デザイン性の高いかずら細工が並ぶ「工房 山棲みのかご」。山元きぬよさんはご主人亡き後、故郷の阿蘇市へと移住。「主人の仕事の関係で宮崎県高千穂町に住んでいたころ、近所のお年寄りがカゴを編まれていたので、教えていただいたことがきっかけです」。その後、転居した地で出会った籐職人からは、さまざまな編み方を3年間学びました。「技量さえあれば、かずら、竹、ワラなどの色んな素材に幅広く応用できるんですよ」蔓系の植物を総称してかずらと呼ぶが、藤かずらや葛(くず)かずらなど数ある種類の中でも、特に好んで使っているつづらかずらは、採れる量が減少傾向にあるといいます。かずらは木に巻き付く“男かずら”と地面を這う“女かずら”があり、編み細工に使えるのは“女かずら”だけ。「人間と同じなのよ」と、冗談まじりに教えてくれた。熊本の秘境といわれる五家荘の山奥の湿地で10〜11月中旬にかけて採取されたものを半年かけ陰干しにして使います。細工に適したかずらを見極めるため、植物学も学びました。完成品は使うごとに艶を帯び、40〜50年は使えるそうです。1990年頃のバブル期は、需要に追いつかないほど人気だったという山元さんのかずら細工。あるデザイナーから声がかかり、東京コレクションのためにパリやミラノ・アメリカへと飛びました。「帽子の場合、素材が素材だけにサイズ通りだと頭が痛くなるし、緩くても安定しない。大変でしたが、ショーのラストで、かずらの帽子やショールを身につけたモデルさんが登場したときは、感動で涙が止りませんでした」一輪挿しから屏風、モニュメントなども作りますが、い草の草履なども編んでいます。「基礎をしっかりと勉強しておけば、何にでもチャレンジできます。私は“個性”で編みたいと思っていますから、普通のもののようでも最後のひとひねりが違う。長年使っても飽きのこない、何を飾っても似合うカゴを作るのが好きですね」さらに“乱れ編み”という独自の技法と鉄や灯りを組み合わせたものにも取り組んでいます。「材料のうねりを利用して、頭の中でデッサンしながら編んでいくとステキな流れになるんです。かずらは自然素材ですから、感謝しながら編み上げる責任があると思って」。時代に合わせて柔軟に変化している作品、常に前向きな山元さん自身の生き方と重なって見えます。「プロとしてプライドがありますから、“次はこれを仕掛けてみよう”なんて展開していく。遊びも勉強も最後まで。“死ぬまで好奇心”です。」